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アナスイ
バッグ
長財布

大人っぽい香水


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あがぁなぁの腕が回るたび、香水をつけたその肩に頬を寄せるたび。 わしを包んだセクシーでほろ苦い香り。 同い年のあんたが、ちぃとでも大人っぽく見せようとしてこぉたアナスイ香水。 何処にでもあるもんじゃったけど、あんたがつけると別。バッグを持った誰がつけてるんとも違う。 そう思うとったのに。 あんたと同じ香水を ガキみたいにひとしきり泣いて、香水のにおいでマスカラの涙がだんだんとひいてくる頃。 わしゃぁどうしようもないほどの後悔を感じとったんじゃ。 見ず知らずの、げにまったく他人の男の人に縋って泣くなんて。化粧品と香水の臭いに弱いにもほどがあるんじゃ。 どがぁな男にも縋る女じゃゆぅて思われたらどうしようか。 そもそもこの香水がきつい男はなんでここにいるんじゃろう。 「落ち着きましたか?」 見ず知らずのあんなぁは泣き出したわしにかなり動揺したようじゃったが。アナスイ香水を持って部屋の中まで引き入れ、嫌がらんとぉに背中をさすってくれた。 性根はいい人なんじゃろう。 見た目はその・・・まぁかなり特異だとしても。 「スマンね・・・?それ、わしが作ったんじゃ」 「そうか。わしもほうかゆぅて思うてお持ちしたんじゃが。お菓子はともかくこちらぁ・・・」 「いらんの」 相手の言葉を遮ってぴしゃりゆい放つ。 もう吹っ切れんといけんのじゃ。 休みが明けたらまた嫌でも顔を合わせてしまうんじゃけぇ。 「ふられてしもぉたんだ・・・わし」 そういうとあんなぁは大きな目をもっと丸くしたんじゃ。 香水とかげに驚いた、っちゅうよりゃぁ驚いて見せたゆぅたように見えるが。 「そりゃぁそりゃぁ・・・」 ご愁傷様じゃやら、いなげな慰め言葉が来るんじゃろうか。香水をつけていたがそれとも言葉は続かず、いなげな同情の空気が流れるんか。 嫌じゃのぉ、何で言ってしもぉたんじゃろう。 さっさと追い出せばえかったのに。 愚痴るにしても他にあったはずなんに。 あんなぁが口を開く。 聞きとぉない、聞きとぉなぁで。 「残念なことをしたもんじゃ」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は? 「マフラーを編んでくれる女性なんて今時いませんよ。わしだって貰ったことなぁ」香水の入った袋の中身をしげしげと眺めながらあんなぁは続ける。 「そのあんなぁはげに残念じゃの。貴女はぶち・・・素敵なんに」 何で昨日今日おぉたような人にこがぁなことをゆわれるんじゃろうか。 到底信じられるはずがなぁで。なんに。 香水が好きな胸のつっかえが取れたような気がする。 ぶち悔やんどったはずなんに、憎んどったはずなんに。 もうどうでもええんじゃぁないか、ゆぅて思えてしまう。 自分の欠点をひとつずつ考えとったはずなんに。 こがぁに素晴らしいわしをふった方が悪い、ゆぅて思えてしまう。 「ああ、そうじゃ。これ食べんか。アナスイ香水をつけたまま人様のお宅に上がるんに手土産無しじゃぁ、ゆぅて思いましてね」 ぽかんと口を開けたわしをよそに、あんなぁは楽しそうにもうひとつん包みを開ける。香水のビンの中にゃぁフルーツがたっぷり乗った美味しそうなプリン。 貧乏暮らしをするわしなんか、一月にいっぺんもお目にかかれなそうな立派の。 「甘いもなぁお好きか?」 飄々としたあんなぁが笑う。 ひどく楽しそうに、香水覚えたてのガキみたいに。 「ハイ・・・お好きじゃ」 今日初めて笑えた。ぶち真面目に。 あがぁなぁは、セクシーでほろ苦い香りがしたけど。 この人の香水は、甘くて優しい香りがする。

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